固有受容感覚を発達させるには

固有受容感覚とは一体何でしょう?

 

手足等、自分の身体の一部がどんな動きをしているかやどんな位置にあるかを脳で把握する感覚のことです。固有受容感覚によって、手を動かしても空間の中で自分の手がどの位置にあるかを正確に捉え、目を閉じていても分かるようになっているのです。 連動する動きは全てこの固有受容感覚に左右されます。

 

酩酊状態だったり、神経系疾患によって固有受容感覚が低下していると歩いたり立ったりといった単純に思われる動作でさえ非常に困難になります。当然スポーツやダンスのような洗練された動きをするには高度な身体感覚が必要とされます。例えば平均台の上でバック転してきちんと着地するにはその動きをしている間ずっと身体がどうなっているか自分で把握してなければできません。また、身体が心地良く感じられ、痛みがない状態にあるためには正確な身体感覚は不可欠です。

 

後述の通り、固有受容感覚に問題があると痛みの大きな原因となります。 スポーツのパフォーマンスを向上したい方や痛みをなくしたい方は固有受容感覚を磨くことはとても有効です。実際のところ、パフォーマンス向上または痛みを軽減をするためのトレーニングメソッドや治療法はどんなものであっても主に固有受容感覚を高めることによって効果が現れると言っても過言ではないと思います。固有受容感覚がどのように有効で、なぜ大事なのか、良くも悪くもどのように変われるのかについて以下に考察しました。

 

脳が身体の位置を把握する

 

固有受容感覚を理解するためにはまずボディマップの概念を理解することがポイントになります。道路地図では線が道を示しているように、ボディマップは脳で把握している身体の各部位の配置や位置関係を示します。各部位を動かしたりその部分で感じたことを把握するために脳にはそれぞれの部位に対応している場所があります。

 

例えば実際の手に対応して、手の大きさや形や位置を把握する脳の部分の中にもう一つ擬似的な手が存在していると考えてください。また、脳の中には必要に応じて手で感知してコントロールしなければならない無生物(テニスラケットや道具や帽子等)までも知覚する場所があります。

 

身体の各部位は体内にある無数の機械受容器という微視的器官を通してそれぞれの部位に対応した脳の部分と連携しています。ある部位に物理的な刺激を受けると、その部位の感覚を司る脳の部分に神経系を通じて信号が送られます。脳はこのように無数に受けた刺激からの信号の情報をまとめてその部位の位置関係やどんな動きをしているかを厳密に判断します。つまり身体に何が起こっていてどのように動くべきか見極めるために各部位の位置関係を示すたくさんの地図を脳の中で作成しているのです。

 

良い動きをするために大切なのは正確なボディマップ

 

脳は身体がどんな動きをするべきかボディマップを使って判断するので、当然より詳しくて厳密なボディマップがある方が正確に良い動きができます。従ってマップが不明確でぼんやりしているとどんな動きをすべきかがあやふやになってしまいます。

 

よりたくさんの動きを求められる部位のボディマップはその分大きいので、例えば手のようにとても緻密で多岐にわたる動きをしたり感じることができる部位は、その動きをコントロールしたり知覚する脳の部分もそれに応じて大きいのです。逆に背中の真ん中や肘等のようにあまり動いたりすることなく、感覚が薄い部位に対応する脳の部分はとても小さいのです。

 

また、ある動きの需要が増えるとそれに合わせてその部位に対応するマップが大きくなるということから、動きを連動させるためにマップが必要不可欠であることが分かります。例えば音楽家の指の感覚や動きをコントローしている脳の部分は、それほど指を使わない人の脳の部分に比べて見た目にもはっきり分かるくらい大きいのです。

 

こんがらがって分かりにくいマップは痛みを引き起こす

 

正確なマップは感覚的にどう感じるかということに重要な影響を及ぼします。痛みの研究では、知覚を惑わしたり、鏡を使って変わった錯覚を起こさせると被験者に痛みが発生することが分かっています。これらの錯覚によって「感覚運動不整合」という脳のマップが示す情報の矛盾が効果的に作り出され、その結果ほとんどの場合痛みが発生するのです。これらの研究をもとに多くの専門家はボディマップの空いてる隙間や不鮮明な部分や間違いが多くの慢性的な痛みのある状態を引き起こしている重大な要因となっていると考え、これらの問題を解決することによって痛みをなくせる治療につながるとみています。

 

マップがこんがらがっている結果生じる衝撃的な例として幻肢痛があります。事故や手術によって後天的に手足を失った人の多くはその手足がまだ存在しているかのような感覚があったりその部位に激痛を感じることがあるそうです。これは実際に腕がなくなっても脳の中の擬似的な手はそのままであるので、その周辺の神経作用が混じってその部分の脳が刺激されることがあるためです。この現象が起きた時、脳は混乱して、あたかもその腕があるかのようにとてもリアルな感覚を再現し、かなり激しい痛みになることが多いのです。幻肢痛の画期的な治療法では失っていない方の腕を鏡の箱の中に入れて失った腕がまだあるように見せてその腕が健在であると脳に錯覚させるということを行なったりしています。

 

ボディマップは動作から構築される

 

ボディマップは今現在求められている必要な状態を反映するために常に書き換えられています。自分のマップの変化をすぐに実感できる簡単な実験を試してみましょう。自分の耳の正確な形と位置を想像するか感じてみてください。次に左耳だけ数秒間こすってから左耳の感じ方と右耳の感じ方を比べてみましょう。左耳の方がずっと感じやすくなっていることに気付くと思います。その単純な理由は耳に触れたことで機械受容器が活性化され、脳に信号が送られて、その部分のマップが活性化されたからです。もちろんその感覚がはっきりしたのは一時的なものです。

 

このマップへの変化をもっと長期的に持続させたり、永続的にするには、長い時間をかけてそのマップの部分を持続的に活性化していく必要があります。音楽家は他の人に比べて指のマップが大きかったのを思い出して下さい。意識的に調整してある身体の部分を繰り返し使ったり同じ動きを繰り返したりすると、その部分や動きをコントロールしている脳の部分に実際に物理的にも視覚的にも目に見える変化が現れます。練習を積み重ねると上達するのはこれが一つの理由です。

 

もちろんボディマップに与えられる刺激の強さは全ての動きにおいて同等であるわけではありません。マップの質が上がる変化につながる可能性の高い動きというのは好奇心をそそる、明解な、目新しい、興味深い、感覚入力が多様性に富んでいる、ゆっくり、緩やか、意識的、痛みがない等の動きです。

 

反対に動きがないと全て逆に作用します。ある一定期間ある動作を怠った場合、その動きを正確に感じてコントロールする感覚が衰えていきます。これは感覚と運動神経に起こる記憶喪失のような状態で、脳のボディマップが曖昧になってはっきりしなくなってきます。数日間指三本をテープでとめて三本の指が一つの塊のように一緒でないと動かないようにすると、脳はその三本の指をひとまとまりと認識して、一本一本がばらばらの動きができる指だと認識しなくなります。同じように股関節や脊椎でも可能な動きを一通りしていないとマップもぼんやりしてくることが予測されます。そのまま長年放置していると胴体部分が一つのブロックのような動きをするようになります。

 

痛みはマップに悪影響

 

ボディマップの精度が落ちるもう一つの要因は怪我です。痛みが発生すると、怪我をした関節の固有受容感覚の情報が脳に伝わりにくくなるのは、より優先順位の高い痛みの信号に意識が集中するからです。痛みの信号は固有受容感覚に打ち勝って脳では固有受容感覚はそれほど重要な情報ではないと処理されてしまいます。(でもこれは反対にも作用するので、痛みを感じる部分から送られる信号を遮るために、その周りを摩って痛みがないという固有受容感覚を脳に発信すると痛みが紛れます。だからよくぶつけた時にその周りを摩りますよね。)

 

また痛めた関節はあまり動かさなくなるのでその関節からの固有受容感覚の情報も減ります。固有受容感覚の情報が減るということはマップの精度が落ちることになり、感覚が鈍くなり運動神経が衰えてきます。従って、痛みによって動きが減り、そのことによってうまく連動できなくなってその結果運動が減り、さらに痛みも増していくといった悪循環に陥りやすいのです。一度挫いた足首をまた捻挫してしまうことがよくあるのはこういった理由も関係しています。

 

固有受容感覚を発達させるには

 

では固有受容感覚からの情報をどのようにして有効利用すれば良いのでしょうか?

 

1) まず、良く動いてそれを心地良く感じることは肉体的なことであると同時に精神的なことでもあるということを頭に入れておきましょう。肉体が健康であるのと同じくらいそれをコントロールする脳がちゃんと機能できることは重要です。そして脳がうまく機能できるように変えていくことの方が速くて簡単です。

 

2) 次に痛みから解放されることを最優先にしましょう。特にやりたいことができなくなるほどの大した痛みでないとしても、少しでも痛みがあると自分の意思に関係なく脳は身体を調和させることに完全に集中できなくなり、他のことを優先し潜在意識下で動きのパターンを調整してしまうので、本来持っている可能性を最大限に発揮しきれない状態になるからです。

 

3) そしてできるだけたくさん目新しく、意識的で、興味深く、明解で、好奇心をそそり、遊び心に満ちた、痛みのない動きをしましょう。臥位、座位、立位で動かせる関節の動き方を全てやってみましょう。

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